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紫色の月光

紫色の月光

恐怖の最強コンビ 中編

 中編



 マーティオ・S・ベルセリオンは少し前まではオーストラリアで「怪盗イオ」と言う名前で知られる泥棒だった。一度刑務所に殴りこんで無事に帰ってこれた事もある。

 そして彼にはエリック・サーファイスこと「怪盗シェル」という相棒が居たのだが、とある事情で離れ離れになっていた。その時、自分は海に落っこちた物だからエリックはもしかしたら彼が死んだ物かと思ったかもしれない。
 
 そんな彼はとにかく何か大きな事をしてエリックに自分の生存を伝えようとした。今、何処に居るのかは知らないが、彼が無事なら必ず答えが何らかの形で返ってくるはずだ。

 その為に二ヶ月もここに潜んで時を待っていたと言うのに………何と言う皮肉か、本来狙っていた獲物ではなく、「やばい物」を見つけてしまった。


(さて、どうなるだろう………)


 これはマーティオ・S・ベルセリオンと言う男の、ほんの小さな歴史の1ページ。





 カイトとマーティオはすっかり囲まれてしまっていた。それも普通の警備員とは違ってかなり頑丈で、高い攻撃力を誇り、尚且つ疲れ知らずと言うコンボが揃っている警備ロボによって、だ。

「なあ、もしかして俺も敵視されてる?」

 その答えはカイトにはわかり切っていた事なのだが、それでも訊かずに入られなかった。何せ、キッパリと言ってもらった方が少し落ち着くと言う物だからだ。

「100%を超えて200%そうだろうよ」

「キッパリ余計な物までつけて言ってくれてアリガトさん」

 カイトはマーティオに感謝した。彼もこういう状況なら相手にキッパリと言い放つ事だろう。やはりコイツと俺は似てるな、と改めて思う。

 確かに、店長は麻薬なんてものを人に見られたら刑務所行きは免れない。免れる為にはどんな奴であれ見てしまった奴を消さなければならないのだ。ある意味パンドラの箱なのである。

「ところでカイト。俺様と組んでみる気は無いか?」

「何?」

 二人は警備ロボに囲まれつつも、普通に会話している。まるで危機感をもっていないのだ。持っていたらとっくの昔にホールドアップしているだろう。

「流石に数が多すぎる。ここだけならとにかく、上からも増援が来るだろうし、普通の警備員が来るまで時間がかかりすぎる」

「確かに……普通の警備員は10階から下を任せれてるからな。ここに来るまでに時間がかかるだろうね」

「そして、だ。俺様としては是非とも一度貴様と組んでみたい。この状況を何とか切り抜けたい。あの店長を締め上げて金を巻き上げたい、の三拍子が揃っている」

「中々素晴らしい三拍子だな。しかし、俺は基本的に報酬を貰わない限り動かんぞ」

 すると、マーティオは「ククク」と不気味な笑みを浮かべると、革ジャンの胸ポケットから光り輝く石を取り出した。ダイヤモンドだ。

「なっ―――――! そ、それは私のダイヤ……! 何時の間に!」

 店長が驚いているんだから本物なのだろう。二ヶ月侵入していたとはいえ、よく盗み出せた物だ。

「さて、報酬としてはこいつってとこでどうよ?」

 マーティオは相変わらず不気味な笑みでこちらの返事を待っている。それに対してカイトは、

「いいだろう、契約成立だ。事務所には俺が話しておく」

「よーし、じゃあ俺様が全体の右半分を引き受けよう」

「なら、俺は左半分だな」

 カイトが両手の刀を構えると同時、マーティオも大鎌を構えてお互いに背を向けた。軽く周囲を見渡した限りでも、一人100体は倒さなければならないだろう。

「では……GO!」

 カイトとマーティオは同時に叫んだ。それと同時、二つの影が疾走する。

 警備ロボは次々と破壊されていく。ある機体は一刀両断にされ、ある機体は突き刺されて機能を停止し、ある機体は蹴りだけで吹き飛ばされる。

 圧倒的だった。二人の恐るべき強さを目の当たりにしてしまった店長は恐怖のあまり思わず上の階に逃げ始める。

「あ、店長が逃げやがった!」

「追うぞ、カイト!」

 二人は次々と警備ロボをなぎ払いながら上の階を目指す。30階から上の階はエレベーターは無い。階段で登るのみなのだ。

 二人は正に弾丸の如くのスピードで一気に階段まで詰め寄る。その間に破壊された警備ロボは全部一撃で破壊されており、最初から二人を止めるだけの力を持っては居なかったのだ。

 いや、強いて言うならこの二人が異常すぎるほどに強いのだろう。

「38階だぞ! 何が出てくる!?」

「ここから上には店長自慢のロボット兵士達が居る!」

 38階に着いた途端、二人は一旦走るのを中断した。何故なら、目の前に居る巨体がかなり邪魔だったからである。

「………おい、幾らなんでも図体がでかすぎやしないか?」

 彼等の目の前にいるのは全長5m近くある大男である。しかし、これらはただの機械だ。実際の人間が5mも身長があるはずが無い。

 二人は思わず顔を見合わせる。

「どっちが片付ける?」

「ジャンケンで決めるか」

 すると、二人は本当にジャンケンを始めた。目の前に敵が居ると言うのに気楽な物である。

『あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ!』

 しかもさり気無く接戦を繰り広げている。こんな時まで二人は互角の勝負をしていたのだ。

 しかし、流石にそこまで待ってくれるほど巨人はお人よしではなかった。元々人ではないわけだが、そこは敢えて突っ込まないでおく。

「じゃんけんぽん! ………げっ!」

 しかし、巨体が迫るにもかかわらず二人はジャンケンを続行していた。しかも、勝敗が決定したようである。

「俺がアレの相手するのか?」

「ジャンケンの勝ち負けで決めるならそうなるな」

 カイトは溜息をつく。今先ほど握り拳を出したのだが、マーティオが掌を広げて出してくるとは予想だにしなかったのだ。

 いや、本当なら予測しておくべき事なのだろうが、カイトとマーティオはただでさえ負けず嫌いなのだ。負けることなんて最初から考えていない。

「まあ、いいや。面倒だけど、これもお仕事って事で」

「そーゆー事。俺様は店長を追うから、後から追いかけて来い」

 マーティオはそういうと走り出す。その先には5m以上の巨体が居るが、彼の視界には全く入っていない。マーティオの視界にあるのはただ一つ。先の道へと彼を導く階段である。

 巨体の両腕がマーティオに襲い掛かる。しかし、

「―――――――!」

 巨体の目の前に突然、黒の風が吹いた。それは何時の間にか5mの巨体の目の前まで跳躍したカイトの繰り出す蹴りだ。

「んじゃあ、後任せる」

「10分も無く追いついて見せるから、上の階で待ってろ」

「その前に、お前の出番をなしにしてやるよ」

 たった一撃の、何の小細工も無い蹴りによって派手な音をたてて床に倒れる巨体をよそに、マーティオは再び走り出す。

 それを見送ったカイトは、再び巨体の顔面目掛けて蹴りを放つ。

 巨体のモニタアイはその動きを捉えようとしたが、まるで閃光の様なスピードで近づいてくる為に捕まえる事が出来ない。

 巨体のAIがそう判断した時、巨体は再びカイトの強烈な蹴りを受けた。その衝撃は巨体の顔面をへこませるのは十分な威力を誇っており、巨体は何も出来ずに沈黙してしまった。



 39階に辿り着いたマーティオは先ず、周囲を見渡す。しかし標的の店長の姿は見る事が出来ない。どうやら更に上に行ったようだ。

「さて、ここの門番は………あれか」

 マーティオの視界は赤い塗装を施された一体のロボット兵士を映す。それはまるで騎士の様な鎧と兜に身を守らせており、右手には剣、左手には盾を握って敵を排除しようと待ち構えていた。

「さっきのデカブツと比べて随分とまた身軽そうな奴だな」

 騎士はマーティオを敵と認識したのか、その剣を真っ直ぐマーティオに向けて振り下ろす。しかし、彼はそう簡単には斬られない。

 サイズの柄尻から分離した二つの柄がマーティオの両手に握られる。その柄から刃が生えてナイフとなったと同時、騎士の剣は二つのナイフによって受け止められる。

「……っ! 意外に力が強いな、だが!」

 マーティオは自らの意思をサイズに送り込む。その命に従ったサイズは残りの柄を静かに分離させ、螺旋階段の様にマーティオを取り囲むウィザードナイフを作り出した。

「生憎、俺の大鎌は妙に変則的なのだ」

 マーティオは勝ち誇った笑みを浮かべる。その表情の意味を理解できない騎士は剣に更に力をこめようとするが、その行動を行う前に無数のナイフが騎士の鎧と兜の隙間目掛けて突き刺さった。

 モニタアイにブレが生じる為、騎士は少々よろける。マーティオはその隙を逃さない。

 騎士の兜を乱暴に取り外すと、安全ピンを抜いた手榴弾を鎧の中に投げ入れた。彼は急いで騎士から離れ、身を伏せる。すると、ナイスタイミングとでも言わんばかりに騎士が爆発した。



「……本当に10分も無く追いついてきやがった」

 マーティオは元の大鎌形状に戻ったサイズの柄を握ると、何時の間にか背後に居たカイトに言った。

「そっちは意外に時間がかかったんだな。やたら高性能だと見る」

「ああ、さっきのデカブツよりも遥かに高性能だ。例えて言うなら、そう。鮫とジョーズみたいな感じだ」

「成る程。実に分かりやすい例えだ」

 恐らく、分かりやすいとかそういうのは別問題なのだろう。

「で、店長は上か?」

「見れば分かるだろう。居たら今頃17分割にして豚の餌になってる」

 さらりとマーティオは恐ろしい事を言う。しかもそれは冗談ではなく本気なんだから救いようが無い。

 しかしカイトは、

「いや、俺だったら餌にする前にミキサーに入れるな」

「成る程な。流石だぜ」

 何が流石なんだか良くわからない。やっぱり彼等にしか分かりそうに無い会話なのだろう。彼等二人は一般人と比べると常識が遥かにずれているのだ。小さい時にちゃんと教育されなかったからだろう。

「後は……そうだな、この『誰にでも出来る、世界の拷問大百科』に書いてる拷問方法を実験体として扱ってみるのもいい」

「成る程、流石だな。カイト。因みに、それ値段幾らだ?」

「ある人に譲ってもらったのだ。確か………1380円で」

「成る程な。かなり安い。是非ともその人物に会ってみたいものだ」

 そのときが来たら第二、第三のジェイソンやフレディでも生まれそうな予感がするが、残念ながら引き止めれそうな人物はその場には居なかった。

「後は……そうだな、何処かの発展途上国に送って重労働をさせてみるのもいいかもしれん」

「成る程、そこで自動的に鞭打ち状態になるわけだな」

 二人の危険会話はどんどんエスカレートしていく。この二人の場合は実行する気満々なんだから被害者が可哀想で仕方が無い。

 つまり、店長は自然に恐ろしい目に合うことが次々と決定しているのだ。自業自得とはいえ、かなり可哀想である。

「火炙りとかどうだろう」

「それよりもどっかの不思議民族の生贄にささげるってのはどうだろうか」

「お、いいな。それ」

 そろそろ止めないと店長が100回死んでもまだ足りなくなりそうになってきた。何度もいうようだか、この二人は本当に容赦が無い。店長はあの世行きの片道切符よりも恐ろしい切符を手に入れてしまったのだ。



後編に続く


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